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<人事図書館対談・前編>複雑化・深刻化する人事課題に一人で悩まず、仲間をつくろう

<人事図書館対談・前編>複雑化・深刻化する人事課題に一人で悩まず、仲間をつくろう

人材採用や人材育成、組織開発といった人事領域の課題は、社会の人手不足や競争激化、組織の多様化といった背景の中で、一筋縄ではいかなくなっています。さらに、コンプライアンスやメンタルヘルス対策など、昨今の新たな組織課題に向き合うことも求められており、疲弊する現場の声が漏れ聞こえてきます。 

 

では、これからの時代に人事担当者が組織課題に向き合うにあたって、どのような施策が必要なのでしょうか。

 

今回は、人事領域の第一線で活躍し、現在「人事図書館」のオープンに向けて活動する(※)株式会社Trustyyle代表吉田洋介氏をお迎えし、スノーピークビジネスソリューションズの坪内と対談を実施。人事に限らず、社会で働く誰もが心に留めておきたい示唆に富んだ対談となりました。 (後編

 

(※取材:2024年2月)

人事担当者が求めている横のつながり

---お二人のこれまでの経歴をお聞かせください。

 

吉田:組織人事コンサルティングの大手リクルートマネジメントソリューションズで14年、人材採用、人材育成、組織開発、人事制度アセスメントなどに携わり、さまざまな経営支援を行なってきました。その後、2021年に独立して株式会社Trustyyleを設立。主に人事担当者がいない中小企業等において、経営目線で必要な人事領域のコンサルティングをしています。 

 

坪内:東京・御徒町にジュエリータウンがあるのをご存知でしょうか。私は、御徒町にある宝飾店に16年ほど勤めました。まさに吉田さんがサポートをしているような人事部門がない会社で、店長として店舗マネジメントをしながら、採用面接や社員育成もするというプレイングマネージャーでした。人材育成に興味をもったことをきっかけに、人材サービス会社に転職して人材育成と組織開発に携わった後に、スノーピークビジネスソリューションズ(以下、SPBS)に入社しました。 

---現在はどんなことに取り組んでいますか?

 

吉田:長年人事に携わり、最近では人事領域の人材育成にも取り組んできた中で、人事担当者が日常的に学べる場をつくりたいと思うようになり、現在は「人事図書館」の設立を構想し、準備を進めているところです。 

 

坪内:SPBSのHRS事業部では、組織変革のための「オフィス空間デザイン」と「アウトドアサービス」という2つの事業があり、私は主にアウトドアサービスに携わっています。アウトドアでの研修であったり、社員総会のような組織のビジョン共有をするためのイベント支援、さらには、数年に渡って企業様と共に取り組んでいく組織活性化プロジェクトの支援もさせていただいております。 

---「人事図書館」の設立というのはインパクトのある取り組みだと思いますが、どんな施設なのでしょうか?

 

吉田:東京・人形町につくろうとしている人事関連書籍を1000冊以上備えた月額会費制の私設図書館です。名著から学びを得て、つながりをつくり、フラットに相談し合える人事関係者のサードプレイスとなるような場所を目指しています。 

 

 

---なぜ人事図書館をつくろうと考えたのですか? 

 

吉田:経験の有無、企業規模の大小に関わらず、「人事としての学びをもっと深めたい」、「どのように学んでいいのか分からない」という声が多いと感じたからです。その背景には、人事の仕事が積み上がっている状況があります。

 

人材採用、人事評価、人材育成といった人事領域の普遍的なテーマがありながら、今日的なテーマとして、コンプライアンス、社員のメンタルヘルス、さらに健康経営について考えてほしいだったり、人的資本開示に向けての施策だったり、イノベーションやDXといった分野においても、人事に相談が舞い込みます。これまでの学び方を大きくアップデートしていかないと、人事が機能しない、会社として必要な対応が取れないといった可能性が出てきているのです。

 

坪内:人事担当の方に「人事図書館」の話をすると、「東京にしかないんですか?」「私も利用したいです!」と、興味をもつ方がたくさんいます。

複雑化・深刻化する人事領域の悩み

複雑化・深刻化する人事領域の悩み

 

---昨今の人事担当者が抱えている悩みとして、どんなことがあるのでしょうか? 

 

坪内人事担当者の方々の共通の悩みとして、「相談する相手がいない」という話は本当によく聞きます。人事は領域が広いので、人事部の中で採用担当一人、労務担当一人といった状態になりやすく、社内に相談できる人がいない。弊社でも人事担当者が横でつながれるようなイベントができないだろうかと話しているところです。 

 

吉田:坪内さんがおっしゃるように人事は領域が広く、それぞれの領域において悩みが深まっていると思います。

 

採用一つとっても、以前のようにポータルサイトに求人を出しても人は集まらず、スカウトを使うとかSNSを活用するとか、採用活動の選択肢は広がっています。どういった採用手法を取るべきか、人事担当者に課される責任は重くなっています。ですが、会社に提案してもSNSを使うといった新しい施策の理解が得られず、それでも結果は求められるといった板ばさみのような状態も起きています。

 

さらに、人事制度づくりにおいても個人の幸せを尊重する風潮があって、会社の業績との両立を考えなくてはなりません。他にも、人的資本の発信だとか、ハラスメント対策、コンプライアンスといった観点もあり、人と組織という側面でやらなくてはいけないことが積み上がっていて、悩みが深刻化しているのです。

 

坪内:人事担当者が人事を超えるような領域についても考え、携わっていかないといけないということが増えていますよね。 

 

吉田:"戦略人事"という言葉が注目されているように、改めて原点である経営や事業に資する人事のあり方が問われているんだと思います。

エンゲージメント向上に必要な考え方

エンゲージメント向上に必要な考え方

---時代の流れとともに、人事担当者が直面している悩みというのは複雑化・深刻化しているのですね。 

 

坪内:弊社に問い合わせをいただくのも、まさしくそういった課題に直面している方々からです。終身雇用の時代から転職が当たり前の時代となり、人材確保の観点から社員のエンゲージメントをどう高めていくかという課題があり、エンゲージメント向上のためにアウトドア研修を取り入れたいというご相談を多くいただいています。 

 

吉田:現在の現象としてよくいわれるのは「遠心力」と「求心力」です。情報社会において、今の会社より待遇のいいところだとか、面白いことをやっている会社だとか、そういう情報はどんどん入ってくるので、自ずと会社の外に興味が向きやすくなっています。

 

それが遠心力だとすると、一方で求心力というのは、"今ここにいる理由"、つまりエンゲージメントです。求心力をこれまで意識してこなかった会社は、今後ますます苦しくなるでしょう。

 

ただ難しいのは、"今ここにいる理由"というのは立場、世代、個人によっても異なります。自分にとっての幸せ、ここにいる意味というのが多様で自由になっている分、エンゲージメントを高める施策というのは本質的に難しくなっていると感じます。

 

坪内:吉田さんがおっしゃっているように、エンゲージメントを高める施策が難しいという相談はたくさんいただきます。個人のミッションと組織のミッションをどう紐付けたらいいのかだったり、実際にやっている仕事がお客様に価値として届くまで遠い場合、どうやって社員のモチベーションを上げたらいいのかといった相談です。

 

さらに世代間ギャップも大きく、世代によって仕事における価値観や大事にするものは異なっています。20代と40、50代ではやはり世代間コミュニケーションが取りにくくなっていて、その間をつなぐ人材がいないというようなことも起きています。 

 

---エンゲージメント向上が課題としてあるときに、どういった施策が必要なのでしょうか? 

 

坪内:私たちがよく人事の方にお話しする、ハーズバーグの『二要因理論』(※上図)というものがあります。仕事の満足度に関わる「衛生要因」として、給与や労働条件、福利厚生なども大事ですが、一方で「動機付け要因」である仕事のやりがいが上がらないと、"今ここにいる意味"を感じられなくなる。

 

ですから、私たちが提供するアウトドア研修の中では自己内省をしてもらって、一人ひとりが自分の根源性に気づくところから始めて、"今ここにいる意味"を考えてもらう取り組みをしています。

 

吉田:ハックマンとオルダムの『職務設計の中核5次元』の中では、「仕事の有意義性」「自律性」「フィードバックを受けていること」「はじめから終わりまで一貫して携われること」「創意工夫が必要であること」という5つを、内発的動機づけを高める要素として挙げています。これらを備えた魅力的な仕事を設計できているかということを考えてみてもいいと思います。 

 

例えば、本質的に面白くない仕事が社内にあっても、見て見ぬふりをしていたり、「私たちも苦労してきたんだから、若手も苦労すべき」とそのまま放置されている状況も起こりがちです。人が辞めやすい部署があるのであれば、「やりがいを持ちやすくするには…」という観点で点検してみるのは効果的だと思います。

 

坪内:もう一つ組織のエンゲージメントを高めるカギとなるのは、課長や部長といった役職者クラスの方々です。経営者の言葉を自分の言葉として咀嚼し部下に伝える役割を担うのが役職者クラスの方々で、まずはその層にターゲットを絞って施策を行うのも有効です。

 

また、離職者が多いということであれば転職を考える時期に当たる30歳前後や40歳前後に向けた施策で、あらためて会社で何を成し遂げていきたいかを考えてもらうのもいいですね。 

 

吉田エンゲージメント向上施策を何のためにやるのかということに立ち返ることも重要ではないでしょうか。人材が流動的である方が停滞せずに事業が前に進むということだってあります。

 

むやみにエンゲージメントを高めるということではなく、その先で実現したい組織の姿であるとか、もっといえば組織の中でも誰のエンゲージメントを高めることを優先するのかといった解像度を上げることが具体的な施策を描くときの道筋になると思います。 

 

 

 

>>対談後編に続く

吉田洋介(よしだ・ようすけ) 氏
Profile

吉田洋介(よしだ・ようすけ) 氏

人事図書館 館長
株式会社Trustyyle 代表取締役

日本最大手の組織人事コンサルティング企業で、国内外の大手企業からスタートアップまで500社以上の企業に対し、人材採用、人材育成、人事制度、組織調査、1on1導入などの経営支援をおこなう。
「『人事の学び合い、支え合い』を当たり前にしたい」との想いから、2024年4月に東京人形町に人事図書館を開設。

吉田洋介(よしだ・ようすけ) 氏
Profile 吉田洋介(よしだ・ようすけ) 氏

人事図書館 館長
株式会社Trustyyle 代表取締役

日本最大手の組織人事コンサルティング企業で、国内外の大手企業からスタートアップまで500社以上の企業に対し、人材採用、人材育成、人事制度、組織調査、1on1導入などの経営支援をおこなう。
「『人事の学び合い、支え合い』を当たり前にしたい」との想いから、2024年4月に東京人形町に人事図書館を開設。

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