AIによって情報収集や分析は誰でもできる時代になりました。しかし、事業の成否を決めるのは情報そのものではありません。
これから企業に求められるのは、選んだ答えを仲間とともに正解へ育てていく力です。本稿では、AI時代だからこそ重要になるチームの結束力について考えます。
AIによって情報収集や分析は誰でもできる時代になりました。しかし、事業の成否を決めるのは情報そのものではありません。
これから企業に求められるのは、選んだ答えを仲間とともに正解へ育てていく力です。本稿では、AI時代だからこそ重要になるチームの結束力について考えます。
新しい事業を考えるとき、以前であれば市場規模を調べ、競合を分析し、顧客ニーズを整理し、
将来の市場を予測するだけでも、かなりの時間が必要でした。
しかし、AIの発達によって、この環境は大きく変わり始めています。
市場にはどのようなプレイヤーがいるのか。競合にはどのような強みがあるのか。どのようなリスクが考えられるのか。
過去にはどのような成功事例や失敗事例があるのか。
こうした情報を網羅的に集め、論理立てて整理することは、AIが非常に得意とするところです。
企業にとっても、判断材料が整理されることは良いことだと思います。経営会議で何度も事実確認をしたり、
「そもそも市場はどうなっているのか」というところから議論したりする時間は減っていくでしょう。
一方で、私はここに新しい経営課題が生まれていると思います。
情報が揃い、企画がきれいになったからといって、その事業が成功するわけではないからです。
むしろAIによって「判断するところまで」の能力差が小さくなればなるほど、
その先にある組織能力の差が、これまで以上に大きくなるのではないでしょうか。
新しいことに挑戦するとき、すべてが明らかになってから意思決定できることは、ほとんどありません。
情報を調べれば調べるほど、「この情報も確認した方がいい」「この前提条件は本当に正しいのか」と、新しい論点も見つかります。
成功確率を高める情報収集をしたいと思えばキリがありません。
だから経営には、どこかで、
「ここまで分かれば十分だ。あとはやってみよう」
と決めなければならない瞬間があります。
振り返れば、これまで大きな事業をつくってきた企業も、現在ほど豊富なデータやAIによる分析がある中で意思決定していたわけではありません。限られた情報の中で仮説を立て、「こちらへ進もう」と決め、その後に起こるさまざまな問題を乗り越えながら事業を育ててきたのだと思います。
つまり、新規事業においては、意思決定した瞬間に「正解」が分かっているわけではありません。
正解を選んだから成功したというより、選んだものを正解になるまで育ててきた。
そのように捉える方が実態に近いのではないかと思います。
実際に事業を始めれば、企画書には書かれていなかったことが次々に起こります。
想定していたより顧客の反応が悪い。競合が新しい商品を投入してきた。開発に時間がかかる。社内の協力が十分に得られない。
原価が想定以上に上がる。どれだけ精緻に計画しても、すべてを事前に予測することはできません。
ここで組織の差が出ます。
「当初の想定と違ったから仕方がない」と考える組織と、
「では、この状況でどうすれば目標に近づけるのか」と考える組織です。
戦略実行に関する研究でも、戦略を実行するためには、計画を守ることだけではなく、
部門を越えて連携し、現場で起きた変化に適応することが重要だと指摘されています(参考文献【1】)。
これは「決めたことを正解に持っていく力」なんだと思います。
計画通りに進むときには、その力はあまり見えません。
しかし、本当に組織の力が試されるのは、計画通りにいかなくなったときです。
もちろん、目標やKPI、役割分担、進捗管理は重要です。
ただ、それだけで人が最後まで踏ん張れるかというと、私はそうではないと思っています。
「なぜ自分たちは、この事業をやっているのか」
「この仲間と一緒だから、もう一度やってみよう」
「誰かが困っているなら、自分の担当を越えてでも助けよう」
こうしたものは、事業計画書やKPIには表れません。
しかし、事業が苦しい局面になったとき、最後に組織を動かしているのは、
このような目には見えない関係性や共通の思いなのではないでしょうか。
エイミー・エドモンドソンの研究では、チームの心理的安全性が、質問する、助けを求める、失敗について話すといった「学習行動」と関連し、それがチームの成果につながっていくことが示されています(参考文献【2】)。
重要なのは、単に仲が良いことではありません。
困難な状況でも本音を出し、助けを求め、互いに力を貸しながら前へ進める関係があること。
これこそが、私はチームの「結束力」だと思います。
平時には計画が組織を前へ進めてくれます。
しかし、逆境になったときに組織を前へ進めるのは、関係性なのだと思います。
これからAIはさらに発達していくでしょう。
情報を集め、分析し、企画をつくるところまでは、ますます誰でも高いレベルでできるようになっていくと思います。
だからこそ、私は企業の競争力の源泉が「どれだけ正しい答えを考えられるか」から、
「自分たちが選んだ答えを、どこまで正解にしていけるか」へ少しずつ変わっていくと考えています。
そして、その力を生み出す重要な土台が、チームの結束力です。
私たちがアウトドアという環境を使い、チームでタープを立てたり、火を囲んで対話したり、
普段とは異なる役割で協働したりすることを大切にしているのも、このためです。
アウトドア研修というと、「コミュニケーションを良くする」「仲良くなる」ためのものと思われることがあります。
もちろん、それも一つの効果です。
しかし、私たちが本当につくりたいのは、もっとその先にあります。
普段とは違う環境で互いの人間性を知り、小さな協力を積み重ね、「この人となら一緒にやれる」という感覚を協働体験によってつくっていく。それは事業が苦しくなったときにも踏ん張ることのできる「関係性の貯金」をつくることだと思います。
AIがどれだけ発達しても、最後に事業を実現するのは人と人です。
正解のない未来へ進む企業に必要なのは、完璧な計画だけではありません。
「これでいこう」と決めたことを、仲間とともに正解へ持っていく力。
これからの時代、企業が意識的につくらなければならない組織能力の一つが、この「チームの結束力」なのだと思います。
【1】Donald Sull, Rebecca Homkes, Charles Sull
「Why Strategy Execution Unravels—and What to Do About It」Harvard Business Review(2015)
戦略実行では、計画を忠実に遂行するだけでなく、部門を越えた調整や、現場で起こる環境変化への柔軟な対応が重要であることを論じています。
【2】Amy Edmondson
「Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams」Administrative Science Quarterly(1999)
心理的安全性の高いチームほど、質問や相談、失敗の共有などの学習行動が生まれやすく、それがチーム成果につながることを示した代表的な研究です。