業績が落ちると、多くの組織では数字や行動量の管理が強化されます。
しかし、成果を追うほど組織の活力が失われ、さらに成果が出にくくなることもあります。
成果が組織を元気にするのか、それとも元気な組織が成果を生むのか。
本稿では、PERMA理論とSmall Winsの研究をもとに、その関係を考察します。
【さぁ、そろそろ、焚火を囲んで話そう_Vol.77】
成果が組織を元気にするのか、元気な組織が成果を生むのか
成果が落ちたとき、組織では何が起きるか
業績が計画を下回ると、経営やマネジメントは当然、数字を細かく見るようになります。
会議では進捗確認が増え、「なぜできていないのか」「もっと行動量を増やせないか」という問いも多くなります。
経営として必要なことだと思います。
ただ、気を付けないといけないのは成果を取り戻そうとして管理やプレッシャーを強めることが、
かえって組織の力を弱めてしまうことがあります。
成果が出ないから組織が元気を失うのか。それとも、組織が元気を失ったから成果が出なくなるのか。
実際には、どちらか一方ではなく、両方が循環しているのだと思います。
PERMAで見る「組織の悪循環」
ポジティブ心理学を提唱したマーティン・セリグマンは、人が持続的によく生きるための要素をPERMAとして整理しました。
Positive Emotion(前向きな感情)
Engagement(没頭)
Relationships(良好な人間関係)
Meaning(意味・意義)
Accomplishment(達成)
の5つです(参考文献【1】)。
PERMA自体が業績悪化のプロセスを説明する理論ではありませんが、この視点で組織を見ると、業績悪化時に生じる変化を理解しやすくなります。
成果が出なくなると、まずAccomplishment(達成感)が減ります。そうなると「自分たちはやれる」という感覚が弱まり、Positive Emotionも減っていく。さらに余裕がなくなることでRelationshipsも悪化し、相談や助け合いが減る。結果としてEngagementも下がり、次の成果も生まれにくくなる。
つまり、業績悪化 → 達成感の低下 → 前向きな感情の低下 → 関係性の悪化 → 挑戦や没頭の減少 → さらなる業績悪化という悪循環(バッドサイクル)です。
心理学の研究でも、ポジティブな感情は単に成功の結果として生まれるだけではなく、その後の成功を生み出す側面があることが示されています(参考文献【2】)。
成果と組織の状態は、私たちが思っている以上に双方向に影響していると思います。
悪循環を止めるのは「小さな成功」
では、悪循環に入ってしまった組織をどう立て直すのか。私は、必ずしも最初から大きな成果を求める必要はないと思います。
テレサ・アマビールとスティーブン・クレイマーは、仕事における「進捗」の重要性を研究し、意味のある仕事で少しでも前進している感覚、いわゆるSmall Winsが、働く人の感情やモチベーションに大きく影響すると示しています(参考文献【3】)。
例えば、長く止まっていた案件が一歩進んだ。顧客から感謝の言葉をもらった。チームで一つの課題を解決できた。
こうした小さな成功をきちんと認識し、共有することが、次の行動を生み出します。
大きな成果が出るまで組織を元気にできないのではなく、
小さな成功を積み重ねることで、組織を成果が出やすい状態へ戻していく。
ここが悪循環を好循環へ転換する重要なポイントです。
成果の前に「関係性」を整える
もう一つ、循環を変える起点になりやすいのがRelationshipsです。
業績が厳しくなるほど、人は失敗を避け、弱みを見せず、問題を抱え込むようになります。
しかし、本当に難しい局面ほど、「分からない」「助けてほしい」と言える関係性が必要です。
関係性を良くすることは単なる職場の雰囲気づくりではなく、
情報共有、問題発見、学習、挑戦を促すための組織基盤でもあります。
私たちがアウトドア研修やキャンピングオフィスで大切にしているのも、この部分です。
自然の中で普段とは違う役割で協働したり、焚火を囲んで肩書きを少し離れて話したりすることで、
日常の職場では生まれにくい対話や関係性をつくっていきます。
もちろん、一度の研修やオフィス環境の変更だけで業績が上がるわけではありませんが、
大切なのは、そこで生まれた関係性や気づきを、日常の会議、1on1、仕事の進め方に戻していくことです。
非日常で関係性を変え、日常の行動を変え、そこから小さな成功を生み出していく
という循環まで設計することが、組織づくりには必要だと思います。
強い組織とは、好循環に戻れる組織
強い組織とは、常に業績が良い組織ではないと思います。どんな会社にも波がありますし、失敗することもあります。
本当の強さは、悪い状態に入ったときに、自分たちで好循環に戻る力を持っているかどうかだと思います。
数字が悪くなったとき、数字だけを見るのではなく、その数字を生み出している組織の状態も見る。
達成感はあるか。前向きな感情は残っているか。助け合える関係性はあるか。仕事の意味を見失っていないか。
成果が組織を元気にすることもあります。一方で、元気な組織だからこそ、新しい成果を生み出せることもあります。
だからこそ経営や組織を見る立場では、成果を管理する視点と同時に、
成果を生み出す組織の状態を整える視点が必要だと思います。
参考文献・参考情報
【1】Seligman, M. E. P.(2018)“PERMA and the building blocks of well-being.” The Journal of Positive Psychology.
PERMAを「Positive Emotion、Engagement、Relationships、Meaning、Accomplishment」というウェルビーイングを構成する5要素として整理した研究。
【2】Lyubomirsky, S., King, L., & Diener, E.(2005)“The Benefits of Frequent Positive Affect: Does Happiness Lead to Success?” Psychological Bulletin, 131(6), 803–855.
ポジティブな感情と成功の関係について、多数の研究を統合し、成功が幸福を生むだけでなく、ポジティブな感情がその後の成功にもつながり得ることを示したメタ分析。
【3】Amabile, T. M., & Kramer, S. J.(2011)“The Power of Small Wins.” Harvard Business Review, 89(5).
仕事における日々の進捗や小さな成功が、働く人の感情、モチベーション、仕事への関与に大きな影響を与える「Progress Principle」を提示。

