Tiny Tiesとは、人と人との間に日常的に生まれる小さなつながりであり、信頼・協働・創造性を育む組織文化の最小単位です。
このコラムでは、スノーピークビジネスソリューションズ代表の坂田真也が提唱するTiny Tiesの考え方と、組織づくりへの活かし方を解説します。
Tiny Tiesとは、人と人との間に日常的に生まれる小さなつながりであり、信頼・協働・創造性を育む組織文化の最小単位です。
このコラムでは、スノーピークビジネスソリューションズ代表の坂田真也が提唱するTiny Tiesの考え方と、組織づくりへの活かし方を解説します。
中小企業の組織経営について考えていると、人が定着し、部門を越えて協力できる会社には、一つの共通点があるように感じます。
それは、立派な制度があること以上に、
「自分のことを誰かが見てくれている」「ここには自分の居場所がある」と日常の中で感じられることです。
朝、目を合わせて挨拶をする。廊下ですれ違ったときに一言交わす。昼食でたまたま隣に座る。一緒にちょっとした作業をする。
私は、こうした日常にある小さな関わりを「小さなつながり“Tiny Ties”」と呼びたいと思います。学術的に確立された言葉というより、私たちが組織づくりで実践してきたことを振り返って気づいた一つの概念です。
一つひとつは、とても小さな接点です。しかし、その積み重ねによって、「この人なら話しかけても大丈夫そうだ」「少し相談してみよう」という感覚が生まれます。
反対にその接点が無ければ、物理的には近くても心理的に遠い存在となってしまい、話しかけるハードルが高くなってしまいます。
組織的支援の研究でも、「会社は自分の貢献を評価し、自分を気にかけてくれている」と社員が感じることは、組織への愛着や前向きな行動と関係することが示されています(参考文献【1】)。
社会学には、Granovetterの「Weak Ties(弱いつながり)」という有名な考え方があります。親しい人だけではなく、比較的弱いつながりを持つ人が、異なる情報やネットワークへの橋渡しになるという考え方です(参考文献【2】)。
Tiny Tiesは、それとは少し視点が違います。
関係の「強さ」ではなく、関係が生まれていく最小単位の行動に注目する考え方です。
挨拶をする。少し雑談する。一緒に手を動かす。何度か顔を合わせる。こうしたTiny Tiesが積み重なると、小さな信頼が生まれます。そして、本当に仕事の相談をしたいとき、新しいプロジェクトに誰かを巻き込みたいときに、その蓄積が効いてきます。
日常的な顔見知りとの交流も、幸福感や所属感と関係することが研究から示されています(参考文献【3】)。
Tiny Ties → 小さな信頼 → 相談しやすさ → 協働 → 組織の社会関係資本
強い組織は、いきなり強い関係をつくることで生まれるのではなく、こうした小さな接点の蓄積からできていくのだと思います。
問題は、Tiny Tiesを個人の努力だけに任せてしまうことです。「もっと挨拶しましょう」「他部署の人にも話しかけましょう」と言うのは簡単ですが、普段あまり話していない人に声をかけるには、意外と勇気が必要です。
だからこそ経営やマネジメントが考えるべきなのは、人に勇気を求めることではなく、勇気を必要としない環境をつくることだと思います。
当社でも創業以来、朝の掃除を一緒にする、新入社員が全社員と1対1でランチをする機会をつくる、オンライン朝礼でランダムなメンバーに分かれて雑談をする、昼食の席を固定しない、といった工夫を続けてきました。
創業者の村瀬亮からも、こうした文化は自然にできたものではなく、意図してマネジメントしてきたものだと聞いています。
共通するのは、会話を目的にしないこと、話す口実を会社がつくること、固定された関係を崩すこと、役職が一度無効になる場をつくることです。
この考え方は、当社のアウトドア研修にもつながっています。
自然の中でタープを張ろうとすると、役職はあまり意味を持ちません。部長より新人のほうがロープワークに詳しいこともあります。
一人では完成できないため、「そっちを持ってください」「もう少し引っ張りましょう」と自然に声が生まれます。
つまり、「関係性を良くしましょう」と言わなくても、自然と関係が生まれる状況そのものをつくっているのです。
当社のヤマハ発動機様の事例でも、研修後に「話すきっかけ」「話しやすさ」の指標が改善し、「声をかけるハードルが下がった」という声をいただいています(参考文献【4】)。
オフィスの中をキャンプ風にデザインする設計も考え方は同じです。オフィスを単に仕事を処理する場所ではなく、人が偶然顔を合わせ、ちょっと話し、一緒に考えるきっかけが生まれる場所として設計する。
アウトドア研修で関係を動かし、日常の空間でTiny Tiesが生まれ続ける状態をつくる。そこまでつながって初めて、組織開発が日常になるのだと思います。
待遇や福利厚生は重要です。市場水準を大きく下回れば、関係性だけで人を引き留めることはできません。
しかし、大企業と同じように待遇だけで競争する必要もありません。私は、中小企業の組織戦略は、「防衛は市場水準まで、関係性や意味づけは大手を超えるまで」と考えてもよいのではないかと思います。
中小企業には、経営者が一人ひとりの状態を直接見やすい、言葉を直接届けられる、そして必要なら明日から環境を変えられるという強みがあります。社会関係資本の研究でも、人と人とのネットワークや信頼、共通理解は、知識の交換や新しい価値の創出を支える組織資産として捉えられています(参考文献【5】)。
主体性についても、「もっと主体的になってほしい」と人を変えようとするのではなく、
相談しやすい、頼りやすい、挑戦しやすい状態をつくることから始めたほうがよいと思います。
挨拶する。少し話す。一緒に何かをする。
それだけなら、小さなことに見えるかもしれません。
しかし、強い組織とはこうしたTiny Tiesが無数に存在し、必要なときに人と人が自然につながれる組織なのではないかと思います。
人を変える前に、環境を変える。
そして、毎日の中に小さなつながりが生まれる仕掛けをつくる。
そこに、これからの組織づくりの大切なヒントがあると思います。
【1】Rhoades, L., & Eisenberger, R. (2002). “Perceived Organizational Support: A Review of the Literature.” Journal of Applied Psychology, 87(4), 698–714.
社員が「組織から大切にされている」と感じることと、組織への愛着、職務満足、離脱行動などとの関係を整理したレビュー研究。
【2】Granovetter, M. S. (1973). “The Strength of Weak Ties.” American Journal of Sociology, 78(6), 1360–1380.
親密ではない「弱いつながり」が、異なる人や集団を橋渡しし、新しい情報や機会をもたらすことを論じた代表的研究。
【3】Sandstrom, G. M., & Dunn, E. W. (2014). “Social Interactions and Well-Being: The Surprising Power of Weak Ties.” Personality and Social Psychology Bulletin, 40(7), 910–922.
親しい人だけでなく、顔見知りなどとの日常的な交流も、幸福感や所属感と関連することを示した研究。
【4】株式会社スノーピークビジネスソリューションズ「アウトドア研修で関係性とアイデアが動き出す ヤマハ発動機様 導入事例」
研修後に「話すきっかけ」「話しやすさ」の改善や、参加者の心理的な声のかけやすさの変化を紹介した導入事例。
【5】Nahapiet, J., & Ghoshal, S. (1998). “Social Capital, Intellectual Capital, and the Organizational Advantage.” Academy of Management Review, 23(2), 242–266.
人と人とのネットワーク、信頼、共通理解などの社会関係資本が、知識交換や組織の価値創出に寄与することを整理した研究。