組織の信頼や協働は、大きな制度やイベントだけで生まれるものではありません。人と人との間に日常的に生まれる小さなつながり、つまり「Tiny Ties」の積み重ねが、組織文化の土台をつくります。
では、そのTiny Tiesはどのように育まれるのでしょうか。今回は、組織のなかに「ちょっと知っている人」を増やし、信頼・協働・創造性につなげていくための5つの原則について考えてみたいと思います。
【さぁ、そろそろ、焚火を囲んで話そう_Vol.78】
Tiny Tiesを育む5つの原則
~組織のなかに「ちょっと知っている人」を増やす~
Tiny Tiesを、もう少し日常の行動に分解してみる
以前のコラムでも、日常にある小さなつながり「Tiny Ties」について紹介しました。
今回はもう少し具体的に、どのようなことを意識すると、日常の中に小さなつながりを増やしていけるのかを考えてたいと思います。
Tiny Ties=小さなつながりをつくるというと、「社員同士が仲良くなること」と受け取られるかもしれませんが、私が考えているのは少し違います。
大切なのは、全員が親しい関係になることではなく、
「この人なら、ちょっと声をかけられるな」
そう思える人が、組織の中にたくさんいることです。
仕事では、何か分からないことを聞く、新しいアイデアを相談する、他部署に協力をお願いするなど、人に声をかける場面がたくさんあります。そのとき相手をまったく知らないのと、少しでも接点があるのとでは、最初の一言を発するハードルが大きく違います。
Tiny Tiesは、その最初の一言を言いやすくするための、小さな関係の蓄積とも言えると思います。
「知らない人」から「声をかけられる人」へ
同じ会社にいても、「名前と部署は知っているけれど、ほとんど話したことがない」という人は意外と多いのではないでしょうか。
そこに、小さな接点が加わっていきます。
朝、目を合わせて挨拶をする。
オンライン会議で発言したときにうなずく。
社内SNSの投稿にリアクションする。
以前聞いた趣味の話を覚えていて話題にする。
髪型や服装の変化に気づいて一言声をかける。
一つひとつは、ほんの数秒のことです。しかし、こうした経験が重なると、
「存在を知っている人」 → 「人となりを少し知っている人」 → 「声をかけられる人」
へと、関係が少しずつ変わっていきます。
ここで重要なのは、深く相手を知る必要はないということです。
「キャンプが好きだったな」「以前あの案件を担当していたな」「いつも投稿に反応してくれるな」。それくらいでも十分です。
組織の中に、この「ちょっと知っている人」をどれだけ増やせるか。
私は、それがTiny Tiesを育むうえで重要なポイントの一つだと思っています。
Tiny Tiesを生み出す5つの原則
社内でもTiny Tiesについて考えてもらったところ、さまざまな具体例が出てきました。それらを整理していくと、大きく5つの原則に分けられそうです。
「認識する」「反応する」「覚えている」「ちょっと声をかける」「小さく一緒にやる」です。
名前を呼ぶ。目を見て挨拶する。手を振る。
相手の発言にうなずく。チャットにスタンプを返す。社内SNSで「いいね」を押す。
以前話していたことを覚えていて、次に会ったときに話題にする。
用事がなくても、「最近どうですか」と一言声をかける。
一緒にランチをする。掃除をする。ちょっとした作業を一緒にする。
どれもなにか特別な制度は必要ないものです。
共通しているのは、相手に対して「私はあなたの存在を認識しています」という小さなサインを送っていることです。
そして、この小さなサインを受け取る経験が積み重なり、「話しかけても大丈夫そうだ」という感覚がつくられていくと思います。
アウトドア研修は、Tiny Tiesが大量に生まれる
私たちが行っているアウトドア研修を振り返ってみると、認識する、反応する、覚えている、声をかける、一緒にやるという、Tiny Tiesの5つの原則が短時間に数多く現れています。
例えば、チームでタープを張る場面があります。
「ちょっとそのロープ持ってて」
「こっちのポール押すね」
「もう少しそっちに引っ張って」
「これで合ってますか?」
こうした小さな声の掛け合いが、次々に発生します。
ここで面白いのは、コミュニケーションを取ること自体が目的ではないということです。
目的は、みんなでタープを完成させることです。
一人ではできないため、自然と誰かに頼る必要があり、誰かの動きに反応し、声を掛け合わなければ完成しません。
しかも、それを行うのは会議室ではなく、自然の中でキャンプスタイルの空間をみんなでつくっている場です。
少しレジャーのような雰囲気もあるので、普段の役職や肩書も外れやすくなります。部長だから指示をする、新人だから待っている、という関係ではなく、その場で必要な人が必要な声をかける関係に変わっていきます。
つまりアウトドア研修は、単に「仲良くなる場」ではありません。
共通の目的があり、その目的を達成するために小さな声かけが必須で発生し、
さらに自然のなかでリラックスもするので肩書が外れやすい。
だからこそ、短い時間の中でもTiny Tiesがたくさん生まれてくると思います。
私たちがオフィスの中をキャンピングオフィスにデザインしていることも、考え方は近いと思います。
仕事を処理するだけの場所ではなく、人と人が顔を合わせ、少し立ち止まり、一言交わせる。
Tiny Tiesが自然に起こりやすい環境そのものをデザインすること。
組織開発では、こうした視点も大切だと考えてサービスにしています。
「ちょっと知っている人」が多い組織をつくる
Tiny Tiesを増やすために、大きなイベントをたくさん企画する必要はないと思います。
社員総会を開催することそのものがTiny Tiesではありません。
そこで普段あまり話さない人と目が合い、「久しぶりですね」と声をかける。その瞬間がTiny Tiesです。
ランチ会を開催することが目的なのではなく、普段話さない人同士が少し言葉を交わせることが大切です。
だから私は、新しい制度やイベントを考える前に、今ある日常の中でTiny Tiesを増やせないか考えてみることから始めてもよいと思います。
気づく。
反応する。
覚えておく。
一言声をかける。
少しだけ一緒に何かをする。
そうした小さな行動によって、「知らない人」が「ちょっと知っている人」に変わり、やがて「声をかけられる人」に変わっていく。
そして組織の中に声をかけられる人が増えれば、相談や依頼がしやすくなり、部署を越えた協力や、新しい挑戦への巻き込みも起こりやすくなると思います。
強い組織とは、全員が仲良しの組織ではなく、必要なときに自然に人と人がつながれる組織なのかもしれません。
Tiny Tiesは、そのために今日から誰でも始められる、小さな組織づくりだと思います。
参考文献・参考情報
【1】Seligman, M. E. P.(2018)“PERMA and the building blocks of well-being.” The Journal of Positive Psychology.
PERMAを「Positive Emotion、Engagement、Relationships、Meaning、Accomplishment」というウェルビーイングを構成する5要素として整理した研究。
【2】Lyubomirsky, S., King, L., & Diener, E.(2005)“The Benefits of Frequent Positive Affect: Does Happiness Lead to Success?” Psychological Bulletin, 131(6), 803–855.
ポジティブな感情と成功の関係について、多数の研究を統合し、成功が幸福を生むだけでなく、ポジティブな感情がその後の成功にもつながり得ることを示したメタ分析。
【3】Amabile, T. M., & Kramer, S. J.(2011)“The Power of Small Wins.” Harvard Business Review, 89(5).
仕事における日々の進捗や小さな成功が、働く人の感情、モチベーション、仕事への関与に大きな影響を与える「Progress Principle」を提示。

