地域に根差し、新しい歯科技工所のあり方を模索
---倉繁歯科技工所さんの事業概要を教えてください。
弊社は、鳥取県倉吉市にラボをもつ昭和32年創業の歯科技工所です。県内を中心に、山陰地区で主にお取引をいただいております。現在、鳥取県内には歯科医院が256件ほどありますが、そのうち約半数の歯科医院様とお取引があり、地域に根差した技工所であることが強みです。
歯科技工は労働集約型の事業といわれますが、弊社は歯科技工業界で初めてとなる最新機器の導入に踏み切るなどして人繰りを機械で埋めて省人化し、さらに新規事業への取り組みや別業種とのつながりづくりをするなど、新しい試みを精力的に行っています。
社員数は役員を含めて24名、そのうち20名が国家資格をもつ歯科技工士です。若手の20代から熟練の50代まで幅広い層の技工士がいますが、新しい試みを積極的に受け入れて楽しんでくれる社員が多く、変化に強い技工所だと感じています。
フツウではない、ワクワクできる研修スペースを
---キャンピングオフィスを導入した経緯を教えてください。
地方の歯科技工所はいま、人口減少や技術の承継という課題に直面しています。熟練技工士の技術が承継されないまま技工所を閉めてしまうケースがあり、結果的に地域医療の受け皿が危ぶまれています。
弊社にとっても技術承継が課題となっています。若手技工士を育てていくためにも、社員が勉強したり、研修したりするスペースがほしいという思いがありました。以前から研修スペースをつくろうとしていたのですが、社員数が増えてキャパオーバーになっていたため、2022年夏に建屋を増築し、2階部分を研修スペースとして使うことになりました。
念願だった研修スペースをつくるにあたって、オフィス家具を揃えるというのはあまりピンときませんでした。サイネージを取り付けたりデジタルを駆使したオフィスみたいなのはどうかとアドバイスいただいたこともありますが、それもピンとこなくて、考えあぐねていたときにスノーピークがオフィス空間を提案していることを知りました。
問い合わせをしたところ、すぐにイメージを起こしてキャンプ仕様の研修スペースを提案してくれました。第一印象ですごくワクワクして、社員も喜んでくれるだろうと思いましたし、地域や同業の方と集まるハブ的なスペースにしたいという想いもあったので、そういった意味でもぴったりだと感じました。
天井にはシェードを張り、遊び心のある空間に
---研修スペースでこだわった部分はどこでしょうか?
遊び心のある空間にしたいということです。スノーピークビジネスソリューションズの勝間さんが提案をしてくれたのは、テーブルやイスを並べるだけではなく、テントや焚火台を置き、天井にはシェードを張るなど。研修スペースをつくるという発想ではなかなか思い浮かばない面白いプランでした。
増築部分を建設しながらの計画だったので、「シェードを張れるようにもう少し天井を高くしましょう」とか、「それなら照明の位置も変えたほうがいいですね」と、ゼロベースからイメージを膨らませながら一緒につくっていくことができました。
シェードに関しては、イメージが湧きづらいこともあって社内で当初反対の声があったことは否定できませんが、これがあることで雰囲気が大きく変わることを納得してもらえるよう私も勝間さんも試行錯誤しました。実際に空間ができあがってみると、天井にシェードがあることで空間が立体的になり、垢抜けた印象に仕上がりました。
社内外のみんなが学び合い、つながる場所にしたい
---研修スペースで実現したいのはどんなことですか?
まずは当初の目的どおり、社員の学びの場にしていきたいということです。例えば、外部講師を呼んでの勉強会、新規事業や各部署のミーティングなど、私たちが変化していくための試みをたくさんしていくつもりです。
またこの研修スペースが社内外のハブとなるような役割をもてたらいいなと思っています。地域の方や同業者、他業者の方に集まっていただけるような機会を創出して、コミュニティづくりをしていきたいと思っています。
もう一つは、BCP(事業継続計画)の一環として機能させることです。以前に商工会議所の企画でBCPについて研修した際、オフィスにアウトドア用品があったことで災害時に役立ったという事例を学びました。地域や会社の緊急事態に直面したときにアウトドア用品を活用できると考えたこともキャンピングオフィスを取り入れた理由の一つでした。
キャンピングオフィスは会社の方向性を社内外に発信するツール
---キャンピングオフィスを導入して変わったこと、よかったことはありますか?
対外的には話題づくりになっているところが大きいです。研修スペースに社外の方をお招きしたり、オンラインミーティングの背景が研修スペースになっていたりすると、必ず話題に上がるので、空間に対する私たちの思いを伝えることで評価していただき、応援していただくことが増えました。
社内的には社員の士気が上がったと感じています。会社としてこれから変化していくんだという方向性を象徴するスペースになっていて、社是や社訓を張り出したりするよりも、よっぽどインパクトは大きかったと思います。オフィス家具が整然と並んでいる空間よりも、遊び心のある空間でじっくりと話をしたり、焚火台を囲んで談笑したりしながら、楽しく働くほうが豊かな人間性が育まれるのではないでしょうか。
キャンピングオフィスは倉繁歯科技工所が目指している会社のあり方を体現した存在であり、社内外に分かりやすく発信するツールになってくれています。
歯科技工所の可能性、地域の可能性を広げていく
---倉繁歯科技工所さんの今後の展望をお聞かせください
うちの会社はよく「歯科技工所らしくない」と言われますが、そう言っていただけるのは嬉しいことです。歯科技工所というと、職人の世界、アナログの世界という印象があると思います。もちろん技術の世界ですし、医療分野としてオープンにできない部分はありますが、地方で事業を成り立たせるには、これまで通りやっていたらいいという時代ではありません。
「地方だから」「歯科技工所だから」と何かを諦めてしまうのではなく、柔軟に変化しながら、地方だからできること、歯科技工所だからできることを考えていきたいと思っています。
弊社は、国内の歯科技工所での導入は2台のみという希少な医療認証を得た金属3Dプリンターを活用しています。歯科医療に関わる製作のために導入したのですが、海外から引き合いをもらったり、歯科技工とはまったく別業界からお声がけいただき、協業による新規事業にも取り組むことになりました。それは歯科技工所ならではの技術を生かした事業で、とてもワクワクしています。
私たちはこれからも地域の方々の健康を口の中から保っていくという歯科医療人としてのミッションを果たしながら、その他の領域への可能性を模索して、変化を楽しんでいきます。そして地域に必要とされ、地域によりよい変化をもたらすことができるような魅力ある会社になっていきたいと思います。
ーーー倉繁歯科技工所様、取材のご協力ありがとうございました!