奈良市北部、京都府木津川市・精華町の3市町にまたがる平城・相楽ニュータウン(愛称は高の原)は、2022年にまちびらき50周年を迎えました。そこで、これからの50年を見据えて新しいまちの風景を描き、まちづくりについて考えるきっかけにしようと社会実験を実施。その中で、スノーピーク製品で空間づくりをするイベントコンサルティングサービスを活用していただきました。
社会実験からはどんなことが見えてきたのでしょうか。そして、スノーピーク製品を用いた効果とは。主催者様に話を伺いました。
お客様:奈良市 都市政策課 植村 政也様、金子 奈央様
【社会実験企画運営】
株式会社市浦ハウジング&プランニング 様
株式会社サルトコラボレイティヴ 加藤 寛之様
写真:フォトグラファー 山口 明宏 様
(担当:スノーピークビジネスソリューションズ HRS事業部 吉冨修平)
「住む」から「暮らす」へ。まちに求められる役割の変化
---社会実験の概要、実施した背景を教えてください。
平城・相楽ニュータウンの玄関口、近鉄京都線・高の原駅の駅前広場で、2022年12月7日に「365日高の原びより」という社会実験を実施しました。その目的は、まちに新しい日常の風景をつくり出し、体感してもらうことです。
働く世代が大半を占め、利便性のよい静かな住環境として機能してきたニュータウンですが、まちびらきから50年が経ち、人口減少、住民の高齢化、コロナ禍の影響によるテレワークの普及といった環境の変化によって、これまでとは異なる役割がまちに求められるようになりました。
そんな変化の中で、将来にわたって住みたいと思うまち、持続可能なまちづくりを考える上で、普段は通勤・通学のために通り過ぎる場所である高の原駅の駅前広場に、「食べる・働く・学ぶ・集う」といったさまざまな暮らしの風景をつくり出し、高の原の未来の日常を描く試験的な取り組みをしようと企画したのです。
ポイントは、社会実験のコンセプトやまちの未来戦略に住民の意見を反映させたことです。高の原に愛着をもち、まちで楽しみながら活動している人たちと一緒になって、今後どのようなまちづくりが求められるのかを考えました。また、自然豊かな環境、これまで育んできた住民同士のアットホームでゆるやかなつながり、そういった高の原ならではの魅力についても再認識していきました。
「食べる・働く・学ぶ・集う」。暮らしのシーンを駅前に
---当日の実施内容について教えてください。
まず、高の原に実店舗をもつ店主さんたちに声をかけ、飲食やサービスの出店をしてもらいました。社会実験のための特別メニューを出すというよりは、いつも店で出しているメニューと同じものを用意していただき、“日常の高の原”をそのまま駅前広場にもってきました。
また、「学ぶ」「働く」を体感していただくために、屋外オフィスエリアを設けました。そこにはスノーピークのアウトドアテーブルやチェア、ランドロックやラウンジシェルといったテントを設営し、それらを利用して仕事や勉強ができる環境を整えました。そして、事前に近隣の企業や学生に声をかけ、屋外オフィスでのコワーキング、屋外で学ぶという体験をしてもらいました。
さらに、ハイテーブルを設置して人工芝を敷き、ちょっとした休憩や立ち話、飲食などができるスペースを用意しました。ニュータウンには公園や歩行者専用緑道が多く整備されており、散歩をしたりぼーっとしたりするのにとてもいいんです。そういったニュータウンの豊かな自然の中で過ごす時間をイメージしてもらおうとつくった空間です。
駅前にテント!? ワクワクする新しい日常の風景
---スノーピークのアウトドア製品を採用したのはなぜですか?
高の原の未来の風景を思い描いたときに、スノーピークブランドがイメージにぴったりと当てはまったからです。高の原は、研究施設や教育施設、文化施設が多く集まる学研都市です。文化水準が高く、品のある高の原のイメージを会場でも表現したいと考えました。以前よりスノーピークがアウトドアを用いた新しい働き方の提案をしているのをみていて、駅前広場に働く・学ぶというシーンをつくるのに最適で、利用者の気分が上がる空間づくりができるだろうと思いました。
アウトドア製品といえば通常は自然の中で使うものですので、駅前のコンクリートが敷かれた広場で使用すると、ちょっとした違和感が生じます。その違和感に足を止め、広場に足を運んでくださる方が多くいたので、そういう意味でもスノーピーク製品は大きな役割を果たしてくれました。
また、実際にテントの中に入って座ってみると、意外と心地よいことに気づきます。いつもは通り過ぎてしまう駅前広場が日常の暮らしの中にあったこと、駅周辺が緑豊かであること、さらにニュータウンには自然を感じられる場所がたくさんあること、それらにふと気づくきっかけをスノーピーク製品がもたらしてくれたのではないかと思います。
未来に向けて、まちづくりへの機運が高まった
---社会実験を行った意義をどのように感じていますか?
高の原駅は、1日当たり3万人弱が利用する駅ですが、乗降者は駅前広場周辺にある商業施設へ流れていくか、通り過ぎていくため、駅前は閑散としています。今回の実験では、私たちの予想を上回る819人が駅前広場に集まり、長時間滞在する人もいるなど賑わいが生まれました。そもそも、未来の高の原の「日常の風景」を描くという社会実験であったため、週末ではなく、水曜日に実施しました。それにもかかわらず、たくさんの人が集まってくれたのは、スノーピーク製品含め、会場の雰囲気づくりや明確なテーマ設定といった企画の賜物です。
いつもは閑散としている駅前広場が賑わい、「食・働・学・集」といったさまざまなシーンが生まれ、みんなが楽しそうにしている姿というのは、高の原の住民はもちろん、外から高の原へ通学してきている学生にとっても印象的だったと思います。静かなまちが、ワクワクする面白いまちという雰囲気に変わる。それを住民や学生に見てもらうことができたのは非常によかったです。
当日の様子はムービーで撮影して編集し、高の原駅や近隣の駅のデジタルサイネージでも流しています。高の原の未来をかたちにした「365日高の原びより」の雰囲気を多くの人に感じてもらうことで、これからのまちづくりを考える機運が高まっていくことを期待しています。
地域プレイヤー同士のつながりがまちの未来をつくる
---未来のまちづくりに社会実験はどのような効果をもたらしますか?
社会実験からの波及として、出店していただいた店主さんたちの横のつながりが生まれたのも大きな効果です。店主さんたちは「高の原の未来をつくる」という意識を共有しているので、ただ意気投合したというだけでなく、これからの高の原をつくっていく仲間意識が芽生えたのではないでしょうか。「365日高の原びより」をきっかけにつながった店主さんたちが、高の原の公園でイベントを実施するといった広がりが生まれています。社会実験を通じて、駅前広場の「場」としての期待値が高まり、クラフトマーケットが開催されたりなど、こういったつながりが、未来のまちをつくっていくのだと思います。
まちづくりの機運を高めるつながりが生まれたこの社会実験を、1回きりで終わらせてしまうのはもったいないと感じています。高の原がもつポテンシャルを引き出して駅前に凝縮させ、未来のまちの姿を描いた「365日高の原びより」の風景を日常のものにしていくことが次のステップ。そのためにも、高の原に活気を生み出す地域のプレイヤーを発掘したり、高の原に愛着を持ってくれる人を増やしたりする取り組みをこれから継続していきたいと思っています。
まちの中に暮らしがある、365日楽しい高の原を目指して
---行政としてこれから取り組んでいくことがあれば教えてください。
社会実験を行った高の原駅前広場は、再整備を計画しています。2万平米ほどの広さがあり、交通ロータリーや駐輪場などが集まっているのですが、前述した通り普段は駅への導線として通り過ぎるだけになっていて活用しきれていません。この駅前広場で過ごす毎日をもっと楽しんでもらうには、どのような整備が必要なのか。社会実験で見られた風景や参加者の声を軸にして、未来の高の原に本当に必要とされる駅前広場をこれからつくっていきます。
もちろん駅前広場だけではなく、ニュータウン全体で、平日も休日も、昼も夜も楽しい「365日高の原びより」をつくっていくことが課題です。そのために、緑道や公園、広場など公共空間が豊富にあるニュータウンの資源を有効活用したいと考えています。そこで、行政と民間という立場を超え、また3市町の枠組みを超えて連携するエリアマネンジメント団体を立ち上げていこうという動きがあります。活動をしていくにあたって、社会実験の効果検証を生かし、さらに地域のプレイヤーの方々との連携をいっそう深めていきたいと思います。
--奈良市様、サルトコラボレイティヴ様、取材のご協力ありがとうございました!