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【さぁ、そろそろ、焚火を囲んで話そう_Vol.71】
AI時代に必要なのは、答えではなく「問い」という器

【さぁ、そろそろ、焚火を囲んで話そう_Vol.71】
AI時代に必要なのは、答えではなく「問い」という器

スノーピークビジネスソリューションズ代表の坂田です。

このコラムでは、私たちの会社が大切にしている価値観や目指す未来について、みなさまにお伝えしていきたいと考えています。

読み手のみなさんにとって、新たな「気づき」となり、日々の暮らしや働き方がよりイキイキとワクワクするものになれば幸いです。

「検索は現代のガラス」に感じた違和感

「人類の変革の節目にはガラスがあり、現代におけるガラスは検索である」。

 

そんな話を耳にしたことがあります。確かに検索は、世界中の情報を瞬時に届け、私たちの暮らしや仕事を大きく変えました。

それでも、私はどこかしっくりきませんでした。

 

便利になったことは間違いありません。

しかし、私たちは本当に自分たちの意思で情報社会をつくったのでしょうか。

それとも、便利さに誘われ、いつの間にかプラットフォームが用意した器の中で考えるようになったのでしょうか。

 

この違和感を考えるために、そもそもガラスは何を変えたのかを考えてみたいと思います。

ガラスが民主化したものは「器」だった

ガラスの価値は、透明であることだけではなく、より大きかったのは、中身を大きく変えずに保存し、遠くへ運べる器が、多くの人の手に届いたことだと思います。

 

ガラスは液体を染み込ませにくく、密閉にも適し、内容物に異なる味を加えにくい素材です。古代ローマ期に吹きガラスの技法が広がると、ガラス容器は効率的に生産され、特権階級の装飾品から人々の日用品へと広がっていきました(参考文献【1】)。

 

そこには、四つの変化がありました。中身を残す「保存」、遠くへ届ける「運搬」、器が中身を汚しにくい「不変質」、そして誰もが使えるようになる「民主化」です。

 

さらに、保存できるようになったことで「熟成」が生まれました。すぐに使い切らなくてもよい。時間を置くことで価値が深まる。ガラスがもたらした本質は、中身を変えずに時間と距離を越えて手渡す力を、多くの人に開いたことが大きいかと思います。

検索は、速いけれど「漏れる器」

検索は、速いけれど「漏れる器」

この四つの尺度で検索を見ると、違いが見えてきます。検索は、保存と運搬には圧倒的に優れています。一方で、情報が生まれた背景、語った人の迷い、その場にあった空気や実感までは運びきれません。

 

検索は情報を届けますが、文脈と実感が漏れやすい器です。同じ言葉でも、誰が、どのような状況で、何を背負って語ったのかによって意味は変わります。しかし検索結果では、特定の言葉だけが切り離され、答えとして表示されます。

 

もう一つの違いは、器の持ち主です。ガラス瓶は自分で手に持てましたが、検索結果に何が入り、何が上位に現れるかは、プラットフォームの設計に左右されます。自分の器に見えて、実は借りた器でもあります。

 

これは検索やAIを否定するというわけではなく、正しい情報を早く得ることには大きな価値があります。ただ、答えがすぐに届くことで、自分の中に生まれた違和感を抱え、誰かと考える時間まで失われるなら、便利さとは別の損失が生まれると思います。

問いは、実感を手渡すための空の器

では、これから必要になる器は何でしょうか。私は、それが「問い」だと考えています。

 

会議で「結論は何ですか」と急かされた瞬間、まだ言葉にならない大切な感覚が消えてしまうことがあります。体験の中で生まれた違和感を、無理に答えの形へ固めると、大切な部分が無かったものになってしまいます。

 

一方、「何が引っかかっていますか」「そもそも何のためでしょうか」という問いは、未完成の実感を未完成のまま差し出せます。老子は、器が役に立つのは、その内側に空間があるからだと説きました(参考文献【2】)。

 

問いも空の器です。空いているからこそ、相手の経験や考えが入る余地があります。

 

問いという器には、注ぐべき中身が必要です。

その中身は、検索で集めた情報だけではなく、自分の身体を通して経験したことから生まれる実感です。

 

人は何かを体験すると、小さな違和感を覚えます。違和感は、すぐには言葉になりません。それを問いという器に入れて誰かに差し出すと、相手は自分の経験や考えを注ぎ返します。その往復が対話となり、一人では見つけられなかった意味が生まれます。そして意味が次の行動を変え、その行動が新しい体験を生みます。

 

体験から違和感が生まれ、違和感が問いになり、問いが対話を生み、対話が意味と行動を変え、再び新しい体験へつながっていく。

 

組織が学び、変わるとは、この循環が回り続けることだと思います。

 

心理的安全性の研究が扱う、助けを求める、分からないと言う、問題を指摘するといった行動も、見方を変えれば未完成の問いを相手へ差し出す行為です(参考文献【3】)。問いは頭の良さを示す技術ではなく、相手を「答えを持つ主体」として扱い、関係を開く器なのだと思います。

 

問いが熟成する場を、組織の中につくる

問いが熟成する場を、組織の中につくる

反対に、違和感が生まれた瞬間に検索やAIから答えを受け取ると、この循環は途中で破綻します。問いにする必要も、誰かに手渡す必要もなくなるため、対話も関係性も生まれません。

答えは得られても、自分たちで意味をつくり、行動を変える力は育ちにくくなります。

 

ある企業では、チームで対話を重ねながら企画を創り上げる機会が減り、論理的でよく整理された企画書ばかりが経営会議に提出されるようになったそうです。しかし、経営陣から指摘を受けると、企画案をすぐに取り下げて持ち帰ってしまうため、通らない企画が増えているそうです。論理的な答えだけがある企画よりも、チームの全員で対話し、練り上げた「意味を持つ」企画書は熱がこもるので、以前は経営陣の指摘にも熱心に押し返して審議を通っていたようです。

 

私たちがアウトドア研修やキャンピングオフィスで大切にしているのも、この循環です。自然の中で身体を動かし、焚火を囲むと、まず体験という中身が仕込まれます。視線は火へ向かい、薪を動かす手が自然な「間」をつくります。答えに詰まった沈黙も、会議室ほど不自然になりません。

 

焚火は単なる雰囲気づくりではなく、答えを急がなくてもよい物理的な条件をつくり、問いを熟成させるための器とも言えます。そこで生まれた問いを職場の対話へ持ち帰り、次の行動につなげてこそ、体験は組織の変化になります。AIによって答えを得るコストが下がるほど、希少になるのは、何を問うに値するかを感じ取る身体経験と、その実感を受け止める関係性です。

 

注ぐべき中身をつくる体験、それを変質させずに渡す問い、受け取ってくれる関係性。

 

次の時代に投資すべき組織の資本は、この三つなのだと思います。そして問いという器は、ガラスと同じように、誰もが今日から持つことができるものだと思います。

参考文献・参考情報

【1】The Corning Museum of Glass, “Vessels Gallery”; Gudenrath, W.(2024)The Techniques of Roman-Period Glassblowing, The Corning Museum of Glass.
ガラスの非多孔性や密閉性、古代ローマ期における吹きガラス技法の発達とガラス容器の普及について参照。

【2】Lao Tzu, Tao Te Ching, Chapter 11, translated by James Legge.
器や部屋は、中にある空間によって役に立つという「無用の用」の考え方を参照。

【3】Edmondson, A. C.(1999)“Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams,” Administrative Science Quarterly, Vol.44, No.2, pp.350–383.
心理的安全性と、質問、支援要請、問題提起などのチーム学習行動との関係を扱った研究

坂田 真也(さかた・しんや)
Profile

坂田 真也(さかた・しんや)

代表取締役社長

2009年に入社し、システム営業部に配属され1,000社以上の製造現場を回り、システム提案及び導入支援を行う。​
2015年よりクラウドソリューション事業の責任者となり、コンサルティング業務を確立させ、顧客の様々な業務効率化や働き方改革を支援。
その後、ビジネスにアウトドアを取り入れたキャンピングオフィス事業の責任者や、スノーピークグループのDX支援を推進する責任者を歴任し、2024年に代表取締役社長に就任。

坂田 真也(さかた・しんや)
Profile 坂田 真也(さかた・しんや)

代表取締役社長

2009年に入社し、システム営業部に配属され1,000社以上の製造現場を回り、システム提案及び導入支援を行う。​
2015年よりクラウドソリューション事業の責任者となり、コンサルティング業務を確立させ、顧客の様々な業務効率化や働き方改革を支援。
その後、ビジネスにアウトドアを取り入れたキャンピングオフィス事業の責任者や、スノーピークグループのDX支援を推進する責任者を歴任し、2024年に代表取締役社長に就任。

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