「意識改革が必要だ」と何度伝えても、現場の行動はなかなか変わらない――そんなもどかしさを感じたことはないでしょうか。
実は、意識だけに直接働きかけても人や組織は変わりにくいことが、社会心理学の知見からも分かっています。
本記事では、社会心理学者クルト・レヴィンの変革理論をもとに意識改革が形骸化してしまう構造をひも解きながら、私たちが実践で用いている独自の「エンゲージメント5段階モデル」と実際の導入事例から、行動と意識が連動して変わっていく組織のつくり方をお伝えします。
「意識改革が必要だ」と何度伝えても、現場の行動はなかなか変わらない――そんなもどかしさを感じたことはないでしょうか。
実は、意識だけに直接働きかけても人や組織は変わりにくいことが、社会心理学の知見からも分かっています。
本記事では、社会心理学者クルト・レヴィンの変革理論をもとに意識改革が形骸化してしまう構造をひも解きながら、私たちが実践で用いている独自の「エンゲージメント5段階モデル」と実際の導入事例から、行動と意識が連動して変わっていく組織のつくり方をお伝えします。
意識改革とは、組織で働く人たちが、これまで当たり前としてきた考え方や判断基準、仕事の進め方などを見直し、新しい価値観や行動様式を身につけていく取り組みを指します。
単なる「気持ちの持ちよう」の問題ではなく、業務の優先順位づけや意思決定の基準そのものを変えていく、組織文化に関わる長期的なプロセスです。
変化のスピードが速く、将来を見通しにくいVUCAの時代において、企業には環境の変化に柔軟に対応できる組織づくりが求められています。
加えて、労働人口の減少により、一人ひとりの生産性や自律的な行動がこれまで以上に重要になっています。
こうした背景から、売上・利益の向上、業務効率化、働き方の見直し、多様な人材の活躍推進など、さまざまな目的で意識改革に取り組む企業が増えています。
しかし、目的を掲げるだけでは、現場の行動はなかなか変わりません。
この「変わらない」理由を、心理学の視点から見ていきます。
「意識改革が必要だ」と繰り返し伝えているのに、現場の行動が変わらない――多くの企業がこの壁にぶつかります。
実はこの現象は、精神論や本人のやる気だけの問題ではなく、人が変化に抵抗するメカニズムとして、心理学の分野で古くから説明されてきました。
社会心理学者クルト・レヴィンの変革に関する考え方は、後に「解凍・変化・再凍結(Unfreezing・Changing・Refreezing)」という3段階のモデルとして整理され、組織変革を考える際の代表的な理論の一つとして知られています。
第一段階は「解凍(Unfreezing)」、これまでの価値観や行動パターンへの固執をゆるめる段階です。
第二段階は「変化(Changing)」、新しい考え方や行動を実際に試し、取り入れていく段階。
そして第三段階が「再凍結(Refreezing)」、新しい行動が定着し、当たり前の習慣として組織に根づく段階です。
この考え方から重要なのは、意識への働きかけだけで変化を定着させるのは難しいということです。
人には現状を維持しようとする力が働くため、「解凍」の段階を飛ばしていきなり新しい行動を求めても、反発や表面的な順応にとどまってしまうことがあります。
意識改革がかけ声だけで終わってしまう背景には、この「解凍」のプロセスが十分に設けられていないケースもあります。
レヴィンは、人の行動を個人の特性だけでなく、その人を取り巻く環境や関係性との相互作用から捉えました。
この考え方に立つと、意識改革の出発点は「意識に働きかけること」ではなく、行動が起こりやすい場や仕組みをつくることにあるといえます。
では、この理論を実際の組織づくりにどう落とし込めばよいのでしょうか。
スノーピークビジネスソリューションズで組織づくりの羅針盤としているのが、独自のフレームワーク「エンゲージメントの5段階モデル」です。
これは、ウェルビーイング、仕事設計、成長、関係性、ミッションといった従来別々に語られてきた概念を、現場で使える一つの構造として再整理したものです。
レヴィンの変革に関する考え方とも重なる部分を持ちながら、私たちが日々の組織運営で活用している独自のフレームワークです。
このモデルの特徴は、5つの要素が並列ではなく、下の階層が土台となって順に積み上がっていくピラミッド構造になっている点にあります。
多くの企業の意識改革が空回りする理由は、このピラミッドの「飛び級※」を試みてしまうことにあります。
※ここでは、下位の階層を十分に整えないまま、上位の階層に取り組むことを「飛び級」と表現します
たとえば、長時間労働で心身が疲弊している状態(①BASEの崩壊)のまま、「主体的に動いてほしい」と大きな裁量(②WORK DESIGN)を与えても、社員には「放置された」と受け止められる可能性があります。
同様に、現場が日々の業務に追われ成長実感も関係性の土台もない状態(①〜③が未整備)のまま、経営層が理念やパーパス(⑤MISSION)を熱く語っても、現場の環境や関係性が整っていなければ、現実と乖離したものとして受け止められてしまうことがあります。
これは、レヴィンが示した「解凍」を経ないまま変化を求めることと同じ構造です。
意識改革とは、理念を語ることではなく、土台から一段ずつ積み上げていくプロセスなのです。
この積み上げの状態を感覚だけに頼らず、定期的なサーベイによって「組織のどの階層で積み上げが止まっているか」を客観的に把握した上で、次に打つべき施策を見極めています。
この考え方の詳細と、各階層への具体的なアプローチについては、以下のコラムで解説していますので、ぜひご覧ください。
▶ 「エンパワーメントされた個人と組織を育てる エンゲージメントの5段階モデル」
▶ 「エンゲージメント向上の施策とは?」
理論と自社モデルを踏まえた上で、実際に組織で意識改革を進める際の具体的なステップを見ていきましょう。
ポイントは、闇雲に「意識を変えよう」と呼びかけるのではなく、エンゲージメント5段階モデルに沿って「いまどの階層が積み上がっていないか」を見極めながら、段階的に手を打つことです。
まず取り組むべきは、組織や社員の現在地を正しく把握することです。
「もっと主体的に動いてほしい」という漠然とした願いの前に、まず確認したいことがあります。
社員の心身の状態に無理がないか、業務の裁量や仕組みは整っているか、成長実感や信頼関係はあるかを、サーベイや対話を通じて客観的に確認します。
理想と現状のギャップを感覚ではなく数値で把握することで、「なぜ今、意識改革が必要なのか」を社員に説明しやすくなり、以降のステップの精度も高まります。
現在地が見えたら、次に積み上げるべき階層に合わせて、具体的な行動計画とKPIを設定します。
たとえば土台に課題があるなら、理念浸透だけを急ぐのではなく、まずは業務量の適正化や休息の確保から取り組みます。
成長の土台ができているなら関係性強化に向けた1on1や対話の仕組みを、というように、階層を飛ばさず、次の一段に的を絞ることが重要です。
意識を直接変えようとするのではなく、まずは小さな行動から変える。この順序こそが、レヴィンの「解凍」を実際の施策に落とし込む具体策になります。
計画ができたら、経営層や管理職自らが新しい行動を実践し、手本を示します。
現場だけに変化を求めると、「言っていることと、やっていることが違う」という不信感を生み、かえって表面的には従っていても、内心では納得していない状態を招きかねません。
特に土台となる階層は、管理職の働き方そのものが現場に強く影響するため、管理職自身が率先して行動することの効果が大きい領域です。
意識改革は一度の施策で完結しません。定期的なサーベイで各階層の状態をモニタリングし、想定通りに積み上がっているかを検証しながら、必要に応じて計画を軌道修正します。
あわせて、小さな成功体験を組織全体で共有することも欠かせません。変化を実感できる機会が増えるほど、社員の「これは意味がある」という納得感が育ち、次の階層への移行がスムーズになります。
理論やモデルだけでは、意識改革は実感を伴いません。
ここでは、私たちが空間づくりをご支援した、トヨタ自動車株式会社 車両品質部様の事例をご紹介します。
課題:堅苦しい職場環境と、当事者意識の醸成
2023年末ごろ、「魅力ある職場をつくろうチーム」が発足。従来の堅苦しいオフィス環境を見直し、社員自身が「自分たちで職場をつくっている」と実感できる環境づくりを目指しました。
施策:若手に意思決定を委ね、管理職は支援役に
椅子やロッカーの選定、服装・防寒着のルール、BGMの導入、社員発案のエアロバイク設置など、若手メンバーの意見を積極的に採用。リーダー層は前面に立つのではなく、社内調整やサポートに徹し、若手が主体的に動ける環境を整えました。
これは、エンゲージメント5段階モデルにおける「WORK DESIGN(仕事の設計・裁量)」を、管理職自身が現場に委ねる取り組みでもありました。
成果:職場への愛着と「自分たちでつくる」意識が生まれた
家具を自分たちで選び、運び、設置するプロセスを通じて、職場への愛着や当事者意識が高まり、「自分たちの困りごとが解決されて嬉しい」という声も生まれました。
小さな成功体験の積み重ねが、慎重な意見や戸惑いを次第に前向きな受け止めへと変えていった点も、この取り組みの特徴です。
空間の変化から、マインドセットの変化へ
今後は、オフィス環境だけでなく、部門を超えた交流や若手が主体的に関われる仕組みづくりへと取り組みが広がっていくことが期待されます。
「誰もが自由に使える公園のようなオフィス空間にしたい」という考えは、環境を変えることで、関係性やマインドセットにも変化を生み出そうとする意識改革の実践例といえるでしょう。
ここまで見てきた理論とモデル、事例を踏まえると、意識改革がうまく進まない組織には、共通したパターンが浮かび上がってきます。
最も多いのが、レヴィンのいう「解凍」の段階を経ずに、新しい行動やスローガンをいきなり現場へ持ち込んでしまうケースです。
社員がこれまでのやり方に固執する理由や、変化への不安を十分にほぐさないまま「明日から変わってほしい」と伝えても、表面的な順応で終わり、旗を下ろした瞬間に元の状態へ戻ってしまいます。
土台となる階層が整わないうちに、成長や関係性、ましてやミッションへの共感を求めてしまう「飛び級」も、典型的な失敗パターンです。
土台が整っていない状態では、上位の変化を十分に生かすことが難しくなります。
経営層は意識改革に前向きでも、現場は「業務負担が増えるだけ」と受け止めているケースも少なくありません。
このギャップを放置したまま施策を進めると、現場の反発や、表面的には従っていても、内心では納得していない状態を招き、離職などのリスクを高めることにもつながります。現場に裁量を委ねつつ、経営層自身も行動で示すという両輪が欠かせません。
意識改革は本来、業績向上や働き方の見直しといった経営課題を解決するための手段です。しかし、「意識改革をすること」自体がゴールになってしまうと、具体的な行動や成果に結びつかないまま、社内に疲労感だけが残ってしまいます。
常に「何のための意識改革か」に立ち返る姿勢が重要です。
意識改革は、精神論やスローガンで起こせるものではありません。社会心理学者クルト・レヴィンが示したように、人や組織は「解凍」という土台づくりのプロセスを経て初めて、新しい行動を受け入れ、それを習慣として定着させていきます。
その土台づくりを現場で実践するための地図として、私たちはエンゲージメント5段階モデルを用いています。意識改革は、経営層が理念を語ることからではなく、社員一人ひとりに委ねられた小さな裁量と、そこから生まれる小さな成功体験の積み重ねから始まります。
もし今、貴社の意識改革が思うように進んでいないと感じているなら、まずは「いまどの階層が積み上がっていないか」を見極めることから始めてみてください。
組織の現在地を知ることが、確かな意識改革への第一歩になります。
一概には言えません。組織の規模や課題、取り組む範囲によって異なりますが、土台となる環境や仕事の進め方を整え、新しい行動が定着するまでには、一定の時間が必要です。土台となる環境や仕事の裁量を整えるだけでも一定の時間がかかり、そこから新しい行動が「当たり前」として定着するまでには、相応の期間が必要になるためです。焦って上位の変化を急がせるほど、かえって定着が遠のく点に注意が必要です。
意識改革は「考え方や行動様式を見直し、変えていくプロセス」そのものを指します。一方エンゲージメントは、その結果として社員が組織に対して抱く愛着や貢献意欲の「状態」を指す言葉です。つまり、意識改革は考え方や行動を変えていくためのプロセスであり、エンゲージメントはその過程や結果として表れる、組織や仕事に対する状態の一つと捉えることができます。
詳しくはコラム記事「エンゲージメント向上の施策とは?」をご覧ください。
「解凍」の段階を飛ばしていきなり変化を求めること、土台が整わないまま理念や成長を求める「飛び級」、経営層と現場のギャップの放置、意識改革そのものの目的化――この4点に集約されます。詳しくは本記事内「意識改革が形骸化する組織の共通点と注意点」をご覧ください。
スノーピークビジネスソリューションズでは、意識改革やエンゲージメント向上の進め方について、具体的な状況に合わせたご相談も承っております。
組織診断サーベイやオフィス空間デザインなど、貴社の状態に合わせたご支援内容については、お気軽にお問い合わせください。
▼ オフィス空間デザインの詳細はこちら
・Kurt Lewin, Field Theory in Social Science: Selected Theoretical Papers, Harper, 1951.
・Kurt Lewin, “Frontiers in Group Dynamics: Concept, Method and Reality in Social Science; Social Equilibria and Social Change,” Human Relations, Vol. 1, No. 1, pp. 5–41, 1947.