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人的資本経営を仕組みで終わらせない──組織開発が生み出す「関係の質」という力

人的資本経営を仕組みで終わらせない──組織開発が生み出す「関係の質」という力

人的資本経営」に本腰を入れて取り組んでいるのに、なぜか現場の空気は変わらない——。
 
人事戦略を描き、開示制度に対応し、KPIも設定した。それでも従業員の主体性やエンゲージメントが思うように高まらないという声を、多くの企業から耳にします。
 

その原因は、制度設計そのものではなく、組織の中で日々起きている「関係性」や「協働のプロセス」に目を向けてこなかったことにあるかもしれません。
 

本記事では、人的資本経営を「仕組みで終わらせない」ために欠かせない「組織開発」の考え方と、それを機能させる実践のポイントを解説します。

人的資本経営とは何か?基本の考え方とよくある壁

人的資本経営の定義

人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方を指します。
この定義は、経済産業省が2022年5月に公表した「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書(人材版伊藤レポート2.0)」で示されたものです(※1)。

従来、企業では人材を「人的資源」として捉え、人件費をコストとして管理する傾向がありました。
しかし同レポートでは、人材を「人的資本」として捉え直し、投資によってその価値を伸ばしていく発想への転換が提唱されています。 
この考え方の背景には、モノやカネといった有形資産だけでなく、人が持つ知識・スキル・意欲こそが、企業の競争力を左右する、という認識があります。

ISO 30414・人材版伊藤レポートなど制度対応の現状

こうした流れと並行して、人的資本の情報開示に関する国際規格「ISO 30414」が2018年12月に策定されました。
その後、2025年8月には新版「ISO 30414:2025」が公開され、人的資本の報告・開示に関する要求事項と推奨事項が示されています(※2)。

ISO 30414:2025では、労働力の構成、多様性、コスト、生産性、健康、安全、ウェルビーイング、リーダーシップ、文化、エンゲージメントなど、人的資本に関する11の中核報告領域が示されています。
企業の人的資本に関する報告・開示の国際的な参考枠組みの一つとして参照されています。
 

日本国内では、経済産業省が2020年9月に「人材版伊藤レポート」を公表したことを皮切りに、人材育成方針や社内環境整備方針の開示、エンゲージメントサーベイの導入など、制度面での対応が急速に進みました。

多くの企業が直面する「開示はしたが現場が変わらない」問題

一方で、実際に制度対応を終えた企業の担当者からよく聞かれるのが、「開示項目は揃ったが、現場の行動や関係性は何も変わっていない」という声です。

エンゲージメントスコアや研修受講率といった数値は測定できても、その数値がなぜ動かないのか、あるいはどうすれば動くのかという「プロセス」の部分に、多くの企業がまだ手をつけられていません。

この壁を越える鍵として注目したいのが、「組織開発」というアプローチです。

組織開発(OD)とは何か?人的資本経営との違い

組織開発の定義

組織開発(Organization Development:OD)には、さまざまな定義がありますが、組織の効果性や健全性を高めるために、人と人との関係性やコミュニケーション、組織内で起きている協働のプロセスなどに計画的に働きかけるアプローチとして捉えられることがあります。
その根底には、組織を外部から一方的に変えるのではなく、組織のメンバー自身が自らの組織をより良くしていくという考え方があります(※3)。 

組織開発では、個人の能力開発そのものよりも、コミュニケーションや信頼関係、役割認識といった、人と人の間で日々起きている「協働のプロセス」に着目することが特徴の一つです。

なお、よく混同される「人材開発」とは、アプローチする対象が異なります。
人材開発が主に個人のスキルや知識に働きかけるのに対し、組織開発は人と人との関係性や、チーム・組織における協働のプロセスに働きかけるという違いがあります。

この違いについては、「組織開発で、変わらない組織を動かす。」の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
 

診断型ODと対話型OD

組織開発の手法は、大きく「診断型組織開発」と「対話型組織開発」の2つに整理されます。 

診断型組織開発は、外部の専門家がサーベイやヒアリングによって組織の状態を可視化し、その結果を現場のメンバーとともに解釈しながら課題解決を進めるアプローチです。
客観的な事実を診断によって捉えられるという前提に立っています。 

一方、対話型組織開発は、2009年にガーバース・R・ブッシュ(Gervase R. Bushe)とロバート・J・マーシャク(Robert J. Marshak)によって提示された比較的新しい概念で(※4)、組織の現実は客観的に測定できるものではなく、メンバー同士の対話を通じて社会的につくられていくという前提に立ちます。
診断を経ずに、対話そのものを通じて関係性や認識を変えていく点が特徴です。

どちらか一方が優れているというものではなく、組織の状況や目的に応じて使い分ける、あるいは組み合わせることが重要とされています。

人的資本理論との視点の違い

人的資本経営の土台にある「人的資本理論」は、もともと経済学の分野で発展してきた考え方で、人材を投資対象として捉え、その投資がどれだけのリターン(生産性向上や企業価値向上)を生むかを測定することに主眼が置かれています。

一方、組織開発は、数値化しにくい実際の行動や協働、成果につながるまでの組織内のプロセスや関係の質に着目します。

この2つは対立する考え方ではなく、扱っている領域が重なりながらも視点が異なる、いわば補完関係にあります。

組織開発が扱う3つのレベル:個人・チーム・組織全体

個人レベル:一人ひとりの主体性・関係性

組織開発における個人レベルへの働きかけとは、スキルを教え込むことではなく、一人ひとりが主体性や当事者意識を持って組織に関われる状態をつくることを指します。
自分の意見や存在が尊重されているという感覚があって初めて、人は主体的に組織に関わろうとします。

チームレベル:協働プロセスをデザインする

個人の力を組織の力へとつなぐ結節点となるのが、チームです。
コミュニケーション、相互信頼、目的の共有、役割の相互認識といった「協働のプロセス」が、チームとしての機能を左右します。

こうした協働プロセスは、放っておいて自然に良くなるものではなく、意図的に設計することで育まれていきます。

スノーピークビジネスソリューションズでは、この考え方を「協働体験デザイン®」として体系化しています。
組織の文化は、理念を掲げたり制度を整えたりするだけで生まれるものではありません。
人と人との関係性が変わり、行動が変わり、それが積み重なることで少しずつ形になっていきます。
「協働体験デザイン®」は、こうした文化が育まれていくプロセスそのものを設計するアプローチです。

詳しくは、社長コラム「協働体験デザイン®」──人生を豊かにする本質は"人と人との間"にあるの記事にて解説していますので、あわせてご覧ください。

組織全体レベル:チームの力をつなぎ、組織全体の力へ

個々のチームでの協働プロセスが機能し始めると、そこから新しい動きや変化が生まれます。
こうしたチーム単位の変化がつながり、連動していくことで、チームの能力の単純な合計を超えた「企業としての能力」が発揮されるようになっていきます。 

これが、人的資本経営が目指す中長期的な企業価値向上の、現場レベルでの実質的な土台になります。

なぜ人的資本経営に組織開発が「必要」なのか

人的資本経営のKPIを「結果」として捉えるだけでは、改善のプロセスが見えにくい

人的資本経営で重視されるエンゲージメントスコア定着率などの指標には、組織活動の結果として現れるものが多くあります。
しかし、多くの企業ではこれらの結果指標を測定し、開示することには力を入れる一方で、「その結果がなぜ生まれるのか」というプロセスへの働きかけが手薄になりがちです。
数値を追いかけるだけでは、改善につながりにくい場合があります。

エンゲージメントスコアが低い原因を、制度の不備だけに求めて改定を重ねても、現場の関係性そのものが変わらなければ、根本的な改善にはつながりにくいのが実情です。

人的資本KPIを「関係の質→思考の質→行動の質→結果の質」にマッピングする

組織における結果の生まれ方を説明するモデルの一つに、組織学習の研究者ダニエル・キムが提唱した「成功循環モデル」があります。
これは、関係の質が高まることで思考の質が上がり、それが行動の質、そして結果の質へとつながっていくという、4つの質の連鎖を示したモデルです。

このモデルに人的資本経営のKPIを当てはめて、エンゲージメントスコアや定着率などを、成功循環モデルの「結果の質」に関連する指標として捉えてみると、その手前にある「関係の質」——つまり組織開発が働きかける領域——に手をつけない限り、結果の質だけを直接動かすことは難しいことが見えてきます。

「成功循環モデル」については「成功循環モデルとは? 制度を整えても組織が変わらない理由」の記事で解説しています。 

「制度」と「関係性」の両輪が揃って初めて人的資本投資はリターンを生む

人的資本経営における制度設計や情報開示は、いわば投資の「仕組み」を整える取り組みです。
一方、組織開発は、その投資が現場の行動として実際に機能するための「関係性」を整える取り組みです。
制度面への取り組みと組織内の関係性への働きかけを組み合わせることで、人的資本経営の取り組みをより実効性のあるものにしていくことができます。

制度という土台と、関係性というプロセス。

この両輪が揃って初めて、人材への投資が中長期的な企業価値向上というリターンにつながっていきます。

なぜ「日常業務の場」では関係の質が変わりにくいのか

関係の質を高める重要性が分かっていても、日常業務の中でそれを変えていくのは容易ではありません。
オフィスや会議室には、役職や評価制度、日々の業務プレッシャーといった構造が常につきまとうためです。 

上司の前で本音を言いにくい、失敗を見せたくない、といった心理が働くのは自然なことであり、こうした構造そのものを、日常業務の延長線上だけで変えていくことには難しさがあります。

だからこそ、こうした構造から一度離れられる「非日常の環境」が、関係の質を変えるきっかけとして重要な意味を持ちます。

「アウトドア」という非日常環境が組織開発を加速させる理由

なぜ自然・非日常環境がチームの関係の質を変えるのか

テントを張る、火をおこす、共同で食事をつくるといった活動は、役割や肩書きを一度手放し、“人”として向き合うことで、普段は見えなかった相手の強みや新しい一面が自然と引き出されていきます。 

むしろ、普段目立たないメンバーが手際よく作業をこなす姿が新たな信頼を生んだり、慣れない環境で誰かに助けを求めることそのものが、対等な関係性のきっかけになったりします。
また、自然の中での協働体験は、五感を伴う直接的な経験であることも重要です。

言葉によるディスカッションとは異なり、身体を使った共同作業を経験することは、関係性の変化として、より実感を伴う形で記憶に残りやすくなります。

体験学習サイクルとアウトドアの相性

こうした体験を「その場限りの楽しい思い出」で終わらせず、組織開発の成果につなげる上で重要になるのが、組織行動学者デイビッド・コルブが提唱した「経験学習サイクル」の考え方です。

コルブは、人の学習を一つの点ではなく円環的なサイクルとして捉え、①具体的経験→②内省的観察→③抽象的概念化→④能動的実験という4段階を循環させることで、経験が実際の行動変容へとつながっていくと説明しています(※5)。 

アウトドアでの協働体験は、まさにこのサイクルの起点となる「具体的経験」として、強い印象を残しやすい機会になります。

非日常の環境で得た気づき──
「あのとき自分は誰かに頼ることができた」、「普段話さないメンバーの一面を知った」
その場でファシリテーターとともに振り返り(内省的観察)、日常の職場でも活かせる教訓として言語化し(抽象的概念化)、実際の業務に持ち帰って試す(能動的実験)

この一連の設計があって初めて、アウトドア体験は単発のイベントではなく、組織開発として機能します。

 

屋内研修・オフサイトとの違い

屋内研修・会議室でのオフサイトとアウトドアでの協働体験には、それぞれ異なる特徴があります。

屋内研修やオフサイトは、対話やディスカッションを中心に、課題整理や意思決定、深い対話に取り組みやすい点が特徴です。
 
一方、アウトドアでの協働体験は、身体や五感を使った共同作業を通じて、日常とは異なる環境で関係性を見直す機会をつくりやすく、関係構築や相互理解、協働体験を重視する組織開発に活用できます。
 
どちらが優れているということではなく、組織やチームが抱える課題、研修の目的に応じて使い分けることが重要です。

アウトドア研修による組織開発の事例

実際に、アウトドアでの協働体験による変化を、アンケートなどを通じて確認した事例もあります。
総合建設業を営む日本国土開発株式会社様では、新入社員53名を7グループに分け、4泊5日のアウトドア研修を実施しました。

研修初日には、あえてコミュニケーションに制限を設けたテント設営ワークを実施。「現場を見られない指示役」と「現場の状況を言葉で伝える実行役」に役割を分けたところ、声を掛け合い、こまめに意思疎通を図ったグループほど設営が早く進み、グループによって設営にかかる時間に差がついたといいます。

このワークは、コミュニケーションや相互理解のあり方が、チームの行動や成果に影響することを当事者自身が体感する機会となりました。

また、夜の焚火を囲んだ対話の時間では、普段の会議室では出てこない本音が語られ、新入社員同士だけでなく、参加した上司との距離も一気に縮まったといいます。

研修後のアンケートでは、「自分の感情を適切に表現できる」「発想が広がる」という項目で、約95%の高評価を得ました。
特に「発想が広がる」の評価は研修前後で大きく上昇し、その後も高い水準を維持したことが確認されています。

この効果を受け、同社ではその後、役員を対象としたアウトドア研修も実施しました。役員が普段よりリラックスした表情で、活発な意見交換を行う様子が見られたといいます。 

詳しい実施内容は「固定観念にとらわれない発想力を、自然の中で伸ばしていく。」(日本国土開発株式会社様の導入事例)にて、ご紹介しています。

人的資本経営 × 組織開発 × アウトドアの実践ステップ

ステップ1:現状の関係性を把握する

まず着手すべきは、自社の関係の質が今どのような状態にあるかを把握することです。
エンゲージメントサーベイの数値だけでなく、1on1(上司と部下による定期的な対話)やチーム内でどれだけ本音の対話が生まれているか、部署間の連携はスムーズかといった定性的な観点も含めて見立てます。
数値上は問題がなくても、対話が形骸化しているサインがないかを丁寧に確認することが出発点になります。

ステップ2:非日常の場でチームレベルの信頼構築を行う

診断で見えてきた課題をもとに、日常業務の構造から一度離れた非日常の環境で、チームの関係性そのものに働きかけます。
アウトドアでの協働体験は、役職や評価から解放され、「人」として向き合う機会をつくり、対話や協力が自然に生まれる土壌を整えます。
ここでの体験を意味あるものにするには、体験しっぱなしにせず、その場での振り返り(内省)まで設計しておくことが欠かせません。

ステップ3:日常業務に持ち帰り、行動変容を定着させる

非日常の場で得た気づきは、日常の職場に持ち帰って初めて意味を持ちます。
研修で得た教訓を、実際の1on1や会議、日々のコミュニケーションの中でどう活かすかを具体的に言語化し、継続的に実践していくフォローアップの仕組みが重要です。
単発のイベントで終わらせないことが、組織開発を機能させる分かれ目になります。

ステップ4:人的資本KPIで変化を可視化する

最後に、関係の質の変化が、エンゲージメントスコアや定着率、生産性といった人的資本経営のKPIにどう表れているかを継続的に追跡します。
関係性の変化が、エンゲージメントスコアや定着率、生産性などの指標にどのような変化として表れているかを確認することで、投資対効果の説明責任を果たしながら、次の取り組みの改善にもつなげていくことができます。

よくある質問

Q. 組織開発と人材開発の違いは?

人材開発が個人のスキルや知識に働きかけるのに対し、組織開発は人と人との関係性やチームの協働プロセスに働きかけるという違いがあります。詳しくは「組織開発で、変わらない組織を動かす。」で解説しています。

Q. 人的資本経営が成果につながりにくいケースには、どんな共通点がある?

共通して見られるのは、制度設計や情報開示には力を入れる一方で、現場の関係性やコミュニケーションといった「プロセス」への働きかけが不足しているケースです。エンゲージメントスコアなどの結果指標だけを追いかけ、その手前にある関係性や協働のプロセスへの働きかけが不足すると、数値の改善につながりにくい場合があります。

Q. アウトドア研修はどんな企業・チームに向いている?

特に、対話が形骸化している、部署間の連携が弱い、新しいアイデアが生まれにくいといった課題を感じているチームに向いています。役職や評価から解放された環境で「人」として向き合う機会をつくることで、関係の質の変化を実感しやすくなります。新入社員から経営層まで、さまざまな階層で活用を検討できるのも特徴です。

まとめ:人的資本経営と組織開発の両輪を回す

まとめ:人的資本経営と組織開発の両輪を回す

人的資本経営を「制度・開示」で終わらせず、実際の企業価値向上につなげるには、その土台となる「関係の質」に働きかける組織開発が欠かせません。
そして、日常業務の構造から離れた非日常の環境、とりわけアウトドアでの協働体験は、その関係の質を変える有効なきっかけになります。制度と関係性、両方の視点を持つことが、これからの人的資本経営には求められています。

自社のチームで関係の質を変えるきっかけをお探しの方は、ぜひアウトドア研修についてもご相談ください。

出典・参考文献

  • ※2 ISO 30414:2025 "Human resource management — Requirements and recommendations for human capital reporting and disclosure" 
    ISO 30414:2025 公式ページ

  • ※4 Bushe, G. R., & Marshak, R. J. (2009). Revisioning Organization Development: Diagnostic and Dialogic Premises and Patterns of Practice. The Journal of Applied Behavioral Science, 45(3), 348–368.

  • ※5 Kolb, D. A. (1984). Experiential Learning: Experience as the Source of Learning and Development. Prentice-Hall.

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