スノーピークビジネスソリューションズ代表の坂田です。
このコラムでは、私たちの会社が大切にしている価値観や目指す未来について、みなさまにお伝えしていきたいと考えています。
読んでくださった方にとって、新たな「気づき」となり、日々の暮らしや働き方がよりイキイキとワクワクするものになれば幸いです。
スノーピークビジネスソリューションズ代表の坂田です。
このコラムでは、私たちの会社が大切にしている価値観や目指す未来について、みなさまにお伝えしていきたいと考えています。
読んでくださった方にとって、新たな「気づき」となり、日々の暮らしや働き方がよりイキイキとワクワクするものになれば幸いです。
企業の中で起きる多くの問題は、制度やスキルの不足だけでは説明できないことがあるのではないでしょうか。
座学の研修は山ほど受けた。1on1の重要性も理解している。
心理的安全性という言葉も広く知られるようになっています。
それでも、現場で本音が出ない。部門を越えた協力が生まれにくい。
変わった方がよいと分かっていても、組織がなかなか変わらない。
そんな悩みを、管理職の方からも現場からもよく耳にします。
私たちは、祖業であるシステム導入の現場でも、そのことを見てきました。
仕様書に書かれた仕組み自体は正しくても、関係性が整っていなければ、プロジェクトは前に進みにくくなります。
情報システム部門と現場部門の間に遠慮や分断があれば、要件はずれ、課題は埋もれ、せっかくの仕組みも活かされません。
つまり、組織は「何をすべきか」を知るだけでは変わらないのだと思います。
人と人との関係が変わり、空気が変わり、行動が変わってはじめて、組織は本当に動き始めます。
組織開発の文脈でよく知られるクルト・レヴィンは、変革を「解凍(Unfreeze)」「変化(Change)」「再凍結(Refreeze)」という三段階で整理しています。(参考文献【1】)
まず、これまでの当たり前をいったんゆるめる。
次に、新しい行動や関係性が生まれる。
そして最後に、それが組織の新しい日常として定着していく。
とてもシンプルですが、本質を突いた考え方だと思います。
このモデルを現場の感覚で言い換えるなら、組織が変わるためには、最初に
「今のままではいけない」
「もっとこうありたい」
という内側の揺らぎが必要なのだと思います。
その揺らぎは、実は組織のメンバー一人ひとりが持っているものかもしれません。
ただ、その気持ちや情報を場に出さないまま、日常が流れてしまっていることも多いのではないでしょうか。
そして、その揺らぎは、理屈だけではなかなか生まれません。
ジョン・コッターも、変化は分析が人の考えを変えるから起きるのではなく、感情に触れる何かが人を動かすことで起きると捉え、その考えを“See–Feel–Change”として紹介しています。 (参考文献【2】)
私たちも、まさにそこが大切だと感じています。
人は、正しいことを聞いたから変わるのではなく、何かを感じたときや気づいたときに変わり始めます。
誰かとの距離が縮まったとき。
相手の思いに触れたとき。
自分の心が少し開いたとき。
組織変革の入口には、いつもそうした感情の動きがあるように思います。
私たちがアウトドア研修を行う理由は、そこにあります。
自然の中に出ると、人は少しだけ鎧を脱ぎやすくなります。
会議室では肩書きや役割を強く意識していても、火を囲み、食事を共にし、少し不便な環境を協力して乗り越える中で、相手を「役職」ではなく「一人の人」として感じやすくなります。
心理学や神経科学の研究でも、感情は注意・学習・記憶・意思決定に大きく影響すると整理されています。
つまり、心が動く体験は、単に印象に残るだけでなく、その後の学びや行動変容にもつながりやすいということです。
また、経験から学ぶという観点では、デービッド・コルブの経験学習論も参考になります。学びは、講義を受けて終わるものではなく、
・具体的な経験をする
・それを振り返る
・意味づけをする
・次の行動に移す
という循環の中で深まる、という考え方です。
タープを立てる。焚火を囲む。食事を一緒につくる。
それ自体が目的ではありません。
その過程で、
「お願いします」
「そこ持ちます」
「ありがとう」
という自然なやり取りが生まれることに、大きな意味があります。
座学であらかじめ設計された発言や行動よりも、自然と発せられる言葉や行動の方が、相手の心に届くことがあります。
そうした体験が、関係性を変えていくのだと思います。
特に焚火には、独特の力があります。
暗がりの中で炎を囲んでいると、普段より人の話が入りやすくなり、普段は口にしない思いが自然と出てくることがあります。
居酒屋のにぎやかさとは違う、静かな対話の時間です。
そこでは、上司と部下、部門の違い、年次の差といったものが少しやわらぎます。
私は、この時間がレヴィンのいう「解凍」に近い役割を果たしているのではないかと感じています。
レヴィンの「解凍」は、組織のメンバーが現状に向き合い、変革の必要性に気づくことで、変化への動機づけが生まれる状態を指します。
焚火を囲みながら率直に話し合う時間は、その動機づけを自然に生み出すきっかけになるのではないかと思います。
固まっていた関係性が少しゆるみ、
「この人はこういうことを考えていたのか」
「思っていたより話しやすい人だった」
と感じられることで、率直に意見を場に出せるようになります。
そうしてはじめて、組織が変わる必要性についても、本音で話し合えるようになるのだと思います。
組織が変わる前には、まずこの心のほぐれが必要なのかもしれません。
同じことは、オフィス空間にも言えます。
人は場の影響を受けます。
無機質な空間では、コミュニケーションも必要最小限になりがちです。
一方で、少し心がゆるみ、立ち止まり、誰かに話しかけたくなる場があるだけで、人の行動は変わります。
だから私たちは、オフィス空間デザインにも取り組んでいます。
組織を変えるのは、制度だけではありません。
人と人との間に生まれる空気であり、その空気を支える「場」でもあります。
空間を変えることは、関係性の変化を支える土台づくりでもあります。
私たちの取り組みは、アウトドアを楽しんでもらうことだけが目的ではありません。
本当に目指しているのは、組織の中に人間らしく働ける状態を取り戻すことです。
安心して意見が言えること。
違いを持ったまま協力できること。
困ったときに助けを求められること。
肩書きではなく、仲間として向き合えること。
そうした状態ができてはじめて、制度も、テクノロジーも、マネジメントも本来の力を発揮します。
レヴィンの言葉を借りれば、私たちは自然や空間の力を借りながら、組織の「解凍」を促し、変化を生み、それを日常へと定着させていく仕事をしているのだと思います。
コッターの視点でいえば、感情が動く体験を通じて、人が自ら変わりたくなる状態をつくっているとも言えるでしょう。
AIやデジタルが進化する時代だからこそ、最後に組織を動かすものは何かが、より問われるはずです。
私は、それは人と人との信頼であり、共感であり、「この人たちとなら前に進める」と思える関係性なのではないかと思っています。
スノーピークビジネスソリューションズは、これからも自然と、場と、人の力を信じながら、組織がよりよく変わっていくきっかけをつくっていきたいと考えています。
【1】Lewin, K. (1947). Frontiers in Group Dynamics. Human Relations.
【2】Kotter, J. P., & Cohen, D. S. (2002). The Heart of Change: Real-Life Stories of How People Change Their Organizations.